元理学研究科物理学第二教室・名誉教授 永江知文

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 この3月末をもって京都大学の理学研究科物理学第二教室教授を定年により退職しました永江知文と申します。私が京都大学にお世話になったのは2007年7月のことであり、以来17年が経ちました。その時点で、私は京大のことは全く知らず、そこでの研究に参加したこともほとんどありませんでした。唯一の接点としては、同教室の今井憲一教授と近い分野で実験研究を進めてきたことと、当該研究室の大学院生の何人かの皆さんと米国ブルックヘブン研究所でハイパー核の研究をやったことがあったのみでした。
 講義を担当するというので、京大のみなさんがどうやって勉強しているのかを知ることから始めようとしたのですが、当時の京大物理学専攻には、時間割というのがなく、修士への入学の際に研究室ガイダンスと称して午前中の1時間程度で各研究室で開講している講義について説明がありました。これを聞き逃すと全くわからなくなります。しかし、修士課程における単位取得については、ゆるく制限がかかっているのみでしたから、学期の後から追加で単位を取得できたようです。何と同じ時間帯に行われている講義があったりしたそうで、後になって、文科省からの強い指導が入り、シラバスの整備、大学院における単位取得の制限が行われて、京大物理教室も普通の大学院に向かうことになりました。京大出身の先生たちと講義のことを話すと、「そもそもできる学生さんは自分一人でどんどんやっていくので教える必要はないのである」。とおっしゃっているのに深い印象を持ちました。京大の先輩たちが築いてこられた貴重な校風が失われていったのを感じさせられました。各々の大学がそれぞれの個性ある研究を通じてお互いを切磋琢磨していくところが、大学の面白いところだと思います。京大が京大としてあり続けることを祈ります。